魚介類に含まれる機能成分

魚介類には、人の健康に必要な機能成分が豊富に含まれています。
魚介類に含まれる機能成分として特に代表的な成分とその効果についてご紹介します。

DHA

生理作用抗血栓、脂質代謝改善、抗動脈硬化、血圧低下、脳視覚機能調節、抗腫瘍・免疫調節、抗炎症 など
欠乏症特になし
過剰症特になし
多く含む魚介類まぐろ、さば、ぶり、いわし、さんま、さわら、鮭、ハタハタ、あじ、このしろ など
DHA(ドコサヘキサエン酸)含有量(可食部100g当たり)

1989年、イギリスの脳科学者マイケル・クロフォード博士は、日本人の子供の知能指数が高い理由のひとつとして魚をたくさん食べていることだ、と発表しました。
この発表によってDHAへの注目度が高まり、様々な臨床試験が行われ、その驚きの効果が明らかになりました。今では、血圧や中性脂肪・コレステロールの低下効果だけでなく、アトピーやアレルギー、情緒安定への効果も認められてきています。魚の調理が面倒と感じる場合は、刺身や缶詰を活用しながらするのもよいでしょう。

欠乏症のリスクは特に挙げられていませんが、DHAが不足することで高脂血症や動脈硬化になりやすくなる、内臓脂肪が増えて様々な生活習慣病にかかりやすくなる、認知症発症リスクが高まる、精神的に不安定になりやすくなる、などと言われています。

認知症に関しては最近はアルツハイマー型が増加しており、全認知症患者の8割近くを占めています。この病気の予防には、知的活動や運動も大切ですが、食生活も重要な要因といわれます。魚を1日に1回以上食べる人と比べると、全く魚を食べない人は5倍の確率でアルツハイマー型認知症を発症するという調査結果もあります。

特に積極的に摂取するとよい方

  • 妊娠中の女性
  • 成長期の子ども
  • 認知症が心配な方
  • 生活習慣病が気になる方 など

EPA

生理作用血栓予防、過剰な免疫反応や炎症の抑制、高血圧予防、身体持久力向上 など
欠乏症特にないが、子どもから大人まで全ての年代の人が摂取することが望ましいとされている
過剰症血液が凝固しにくくなる、出血が止まりにくくなる
多く含む魚介類イワシ、クロマグロ脂身、サバ、真鯛、ブリ、さんま、さけ、あじ など
EPA(エイコサペンタエン酸)含有量(可食部100g当たり)

イヌイットに冠状動脈疾患(心臓病)が少ないことから、1960年代にグリーンランドの村でイヌイットの食事と血栓性疾患や血液の成分との関係を調査が行われ、これがきっかけとなってEPAが注目されるようになりました。

EPAには赤血球の膜を柔軟にする性質があり、毛細血管のような狭いところへも血液がスムーズに流れるようにします。さらに、EPAには血管を柔らかくしなやかにする作用もあって、血管年齢を若く保つ効果があることも分かってきました。

加齢に伴い血管が老化すると、動脈硬化や血栓の形成などで心臓病や脳梗塞などのリスクが高まりますが、EPAを摂取することでこれらの病気のリスクを低減させることができると考えられています。

またEPAは、運動する人にとってもプラスの効果があると期待されています。 EPAをトレーニング中に摂取すると、血液サラサラ効果で細胞への酸素供給能力が高まり、持久力の向上につながるとのこと。また、運動時に踵が着地する際の赤血球破壊が減り、スポーツ貧血の予防となる効果が期待されています。

厚生労働省では1日1g以上の摂取を推奨しています。
いっぺんにたくさん摂取するのではなく、1日1gを目標にコツコツ摂取するのがおすすめです。

特に積極的に摂取するとよい方

  • 生活習慣病が気になる方
  • 動脈硬化や血栓が気になる方 など

タウリン

生理作用胆汁酸排泄促進作用による肝機能改善、
心筋機能亢進によるうっ血性心不全改善作用、浸透圧の調節、
交感神経の働きを抑えて血圧上昇を防ぐ、筋肉運動の手助け、
疲労回復 ・網膜の働きを手助け、抗炎症作用(白血球がタウリンを多く含む) など
欠乏症高血圧や、肝臓・心臓の機能低下 など
過剰症特になし
多く含む魚介類さざえ、かき、ほたてといった貝類は特に高濃度(100gあたり1000mg以上)、
タコやイカなどの軟体類、エビやカニなどの甲殻類も比較的多い(100gあたり300〜900mg)魚肉であれば血合の部分 など

ドリンク剤に含まれることでもよく知られるタウリン。
動物性の食品を中心に広く分布していて、特に一部の魚介類に多く含まれています。野菜などの植物性食品にはほとんど含まれていません。
ヒトは、ある程度はタウリンを合成することができますが、食品から摂ることも重要です。

タウリンを食べることによる健康増進や病気の予防については、様々な事項がこれまでに挙げられていますが、一部を除いては十分な科学的データはないものともされており、全てを鵜呑みにはしない方がよいでしょう。

タウリンは、摂りすぎたとしても健康への害はないとされていますが、一度にたくさん摂っても体内で利用される量は限られているので、摂れば摂っただけ効果があるというものではありません。

一日三食、それなりにバランスの良い食生活であれば、タウリンが不足することはないとされています。しかし、不規則で偏った食生活が長期間続いてタウリンが不足する状態になると、タウリン不足による高血圧や、肝臓・心臓の機能低下などが起こる可能性もあるので、魚介類も含めたバランスの良い食生活を心がけましょう。

特に積極的に摂取するとよい方

  • 新生児
  • 血圧が気になる方
  • 心臓や筋肉の衰えが気になる など

参考資料

  • 薩秀夫「アミノ酸の機能性とその新展開3 タウリンの多彩な生理作用と動態」(『化学と生物』Vol.45 (2007)No.4)
  • 和田政裕・真野博・清水純「知りたかった食品成分の機能とエビデンス 第2回タウリン」(『食生活』2007年5月)
  • 坂中亜衣・古谷純也・川崎英二「イラストで学ぶ 機能性なるほど講座 第7回タウリン」(『Nutrition Care』2013年1月、第6巻第1号)

アスタキサンチン

生理作用抗酸化作用、免疫力の強化、糖尿病・脂質異常症の予防 など
欠乏症特になし
過剰症副作用がほとんどない安全性の高い成分とされており、摂取量の上限は特に決められていない
多く含む魚介類鮭、いくら、えび、かに、おきあみ など

「アスタキサンチン」は、鮭、いくら、えび、かになどの赤い色をした魚介類が豊富に含む色素成分です。

藻類が作り出すアスタキサンチンをおきあみ等が食べ、そのおきあみを鮭やえび等が食べてアスタキサンチンを蓄えて身や殻を赤くしていきます。

カロテノイドの中では、ベータカロテンよりも強い抗酸化力があり、栄養の届きにくい細部に入り込めるため、眼精疲労の改善や、美肌・美白、筋肉疲労を軽減する効果が期待されています。また、ガンをはじめいろいろな病気に対する予防効果があると報告されるなど注目されている成分です。

特に積極的に摂取するとよい方

  • 老化が気になる方
  • 生活習慣病が気になる方 など

参考資料

  • 坂中亜衣・川崎英二「イラストで学ぶ 機能性なるほど講座 第26回 β-カロテン、アスタキサンチン」(『Nutrition Care』2014年8月、第7巻第8号)
  • 中村光康「アスタキサンチンの機能・効果」(『アンチ・エイジング医学ー日本抗加齢医学会雑誌』2014年8月、第10巻第4号)
  • わかさの秘密 アスタキサンチン(http://www.wakasanohimitsu.jp/seibun/asta-xanthine/)

イミダゾールジペプチド

生理作用抗疲労、疲労回復、活性酸素抑制・抗酸化・抗老化、持久力・運動能力向上、痛風等生活習慣病予防 など
欠乏症特になし。ただし慢性化した疲労を放っておくと、身体的な不具合や精神的な不調につながる。
多く含む魚介類まぐろ・かつお等の赤身、かじき類 など

抗疲労成分としての効果が科学的に証明されている、イミダゾールジペプチド。複数の抗酸化物質の抗疲労効果を人で実験したところ、コエンザイムQ10やリンゴポリフェノール等他の抗酸化物質をおさえて顕著に抗疲労効果が示されたという抜群の抗疲労力で注目されています。

渡り鳥や、カジキやカツオ、マグロ等、長時間に渡って運動を続ける生物の骨格筋中に多く含まれており、鶏のむね肉100g中におよそ200mg、めかじき100g中におよそ2000mgのイミダゾールジペプチドが含まれているといわれています。

ただし、鶏むね肉やかじきを食べたらすぐに疲れがとれるというものではなく、実験ではイミダゾールジペプチド200mg程度を目安に毎日摂取して2週間程度経った頃から効果があらわれたとのこと。また、イミダゾールジペプチドは調理時に肉汁と一緒に流出してしまうので、煮込み料理などで煮汁こと食べると、無駄にすることなく効率良く摂取できます。

特に積極的に摂取するとよい方

  • 疲れがたまっている方
  • 運動する方
  • 生活習慣病が気になる方 など

アンセリン

「アンセリン」とはイミダゾールペプチドの一種で、2つのアミノ酸、β-アラニンとメチルヒスチジンが結合してできています。脊椎動物の筋肉や脳に存在し、特に回遊魚や鳥など、持久力や瞬発力を必要とする動物の筋肉に多く存在することが知られています。

海の生き物の中では、カジキ、カツオ、マグロ、サケ、トビウオ、サメなどに多く含まれています。特に回遊魚の身には多く含まれていて、回遊魚が泳ぎ続けられるのは、アンセリンにより持久力が維持されているからではないかと考えられています。
陸上の生物の中では鳥類に多く含まれており、身近な食材としては鶏ムネ肉が挙げられます。

アンセリンには、
・疲労回復
・運動能力、持久力向上
・痛風の予防、改善
といった効果が期待されており、生活習慣病の予防・改善やアスリートの運動機能向上の観点からも研究が進められています。
また抗酸化作用もあるため、体を若々しく保つアンチエイジング効果も期待されます。

参考資料

  • 「抗疲労、その研究と応用」(『FOOD STYLE 21』Vol.13 No.12 2009年)
  • 日本予防医薬の疲労を科学するコラム( http://imidapeptide.jp/index.html)
  • わかさの秘密 イミダゾールジペプチド(http://www.wakasanohimitsu.jp/seibun/imidazole-dipeptide/)
  • 独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター「鶏肉のイミダゾールジペプチドの脳老化改善効果を発見」-鶏肉摂取を介した認知症予防の取組に道を拓く- (http://www.ncnp.go.jp/news/news_141218.html)
  • 日本ハム株式会社中央研究所 ミライヘルスLab(https://lab.nipponham.co.jp/)

魚の加工食品を食べるときの注意点

健康増進、健康長寿のためにも、魚や魚の加工食品をぜひ積極的に食べていただきたいのですが、状況によって気をつけなければならない場合があります。

塩分と血圧の関係

日本では以前から高血圧と脳血管疾患が多く見られ、伝統的な食生活における食塩の過剰摂取が大きく影響していると考えられています。
2012年時点での日本の成人1日あたりの食塩平均摂取量は、男性で11.3グラム、女性で9.6グラム。
世界保健機関(WHO)は2013年、世界中の人の食塩摂取目標を1日5グラムに設定しました。
米国の心血管疾患予防のガイドラインでは、塩分の最大摂取量は1日3.8~6.0グラム(2014年10月時点)。
日本人の塩分摂取がいかに多量であるかが分かります。

米国では、食事中の食塩の75%以上がファストフードを含む外食と加工食品に由来しています。日本人における塩分摂取の状況も米国とそう大きくは異ならないであろうと考えられ、新鮮でバランスのよい素材を選びなるべく塩分を使わずに自分で調理することが、減塩への早道です。しかし、加工食品を全く摂らないのも現実的ではありません。加工食品の含む塩分を知った上で、それらを上手に利用すると良いでしょう。

調理方法で工夫しつつ、カリウムを多く含む食材(野菜や海藻、イモ類、リンゴ・バナナ等の果物)適量を食事に取り入れるのがおすすめです。

【ナトリウム排出作用のあるカリウムについて】
eヘルスネット(厚生労働省)「カリウム」
みんなの食育(農林水産省)「塩分の摂り過ぎに注意」

下表に、魚の主な加工食品中の食塩含有量をまとめました。
※文部科学省「5訂食品成分表」「日本食品標準成分表2010」より作成
※加工の方法やメーカーによって塩分量は異なります。
※食塩摂取の調整の際参考となるよう、若干ですが魚以外の食品も掲載しました。

加工食品塩分量(約)
塩鮭1切(80g)4.6g
たらこ一腹(50g)2.3g
焼きちくわ1本(100g)2.4g
いか塩辛大さじ一杯(20g)2g
はんぺん1枚(100g)1.5g
しらす(半乾燥)大さじ山盛り一杯(10g )0.6g
魚肉ソーセージ1本(65g)1.4g
ロースハム厚め1枚(100g)2.5g
ショルダーベーコン厚め1枚(100g)2.4g

脂質について

3大栄養素の1つ、私たちの身体に不可欠な「脂質(脂肪)」。
魚の脂質は頭に良い、身体に良い、等のことを耳にしたことがある人は多いのではないでしょうか。
このページでも、「心筋梗塞」や「脳卒中」など生活習慣病のところに記したように、魚の脂質は生活習慣病等私たちの健康と深く関わっています。
では魚の脂質は、牛や豚などの脂質とどのように違うのでしょうか。
脂質の働きや各脂肪酸の役割・特徴についてまとめました。

脂質とは

脂質は細胞膜や核酸、神経組織などの構成成分として不可欠な成分であり、また、1g当たり9kcalという高いエネルギーを生み出すため、身体活動のエネルギー源として大切な栄養素です。
一方で、身体に悪影響を及ぼす動物性等の脂質の摂り過ぎによる肥満や脂質異常症、動脈硬化などの生活習慣病およびその予備軍は増加しているため、摂取する脂質の種類・質を考える必要があると言われています。

脂質の種類

脂質は以下の4つに分けられます。

  • 脂肪酸
  • 中性脂肪
  • コレステロール
  • リン脂質

脂肪酸について

脂肪酸は、炭素・水素・酸素によって構成されており、それらの結合のし方によって、

  • 飽和脂肪酸
  • 不飽和脂肪酸

の2つに分類されます。

飽和脂肪酸は、豚や牛などの動物性脂肪や、やし油などに多く含まれます。 生理作用としては、中性脂肪やLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を増加させる働きがあります。LDLコレステロールは、動脈硬化を促進させ心臓病や脳卒中などの原因となるので、「悪玉」と呼ばれます。

一方、魚に含まれる脂質は、不飽和脂肪酸の中でも「多価不飽和脂肪酸」と呼ばれるもので、よく知られている「DHA」や「EPA」は多価不飽和脂肪酸の「n-3系脂肪酸」に分類されます。 生理作用としては、中性脂肪を低下させ、HDLコレステロール(善玉コレステロール)を増加させる働きがあります。HDLコレステロールは、血管内にこぼれ落ちているLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を回収し、動脈硬化を抑制します。

脂肪酸一覧

種類代表的な脂肪酸生理作用多く含まれる食品
飽和脂肪酸パルチミン酸・中性脂肪やLDL(悪玉)コレステロールを増加やし油、バター、豚や牛の脂身など
不飽和脂肪酸単価脂肪酸オレイン酸・HDL(善玉)コレステロールを下げずに総コレステロールを低下サフラワー油、オリーブ油、菜種油(キャノーラ油)など
多価脂肪酸n-6系脂肪酸リノール酸・LDL(悪玉)コレステロールを低下
・過剰摂取によりHDL(善玉)コレステロールを低下
ひまわり油、綿実油、大豆油、コーン油、ごま油、くるみなど
γ-リノレン酸
アラキドン酸
n-3系脂肪酸α-リノレン酸・中性脂肪を低下させ、HDL(善玉)コレステロールを増加しそ油、えごま油など
DHA
(ドコサヘキサエン酸)
魚(まぐろ、いわし、さば、さんま、あじ、ぶり、うなぎなど)
EPA
(エイコサペンタエン酸)