魚と生活習慣病の関係

魚介類の摂取と生活習慣病

日本人一人当たりの魚を食べる量は年々減少し「魚離れ」と「食の欧米化」が進行しています。欧米型の食生活を続けると、高脂質・高コレステロールになりがちになり、さらに摂取する栄養が偏りやすくなります。その結果、がん・心臓病・動脈硬化・脳卒中といった生活習慣病に罹患する人が増えているというデータが出されました。
また、魚をたくさん食べる人ほど心筋梗塞になりにくい、魚を食べると血栓の形成抑制に大きな効果、海藻と魚を組み合わせて食べることが肥満防止につながる可能性(*6)、魚介類の摂取が男性の糖尿病予防に効果あり、といったことなどが様々な研究により指摘されています。

※生活習慣病の予防には、食べ過ぎや運動不足等生活習慣全般の見直しが欠かせません。取り入れたい生活習慣の一つとして、魚を組み合わせた栄養バランスの良い食事をおすすめします。

心筋梗塞

厚生労働省の研究班が、1990年から約11年間にわたって岩手県、秋田県、長野県及び沖縄県に住む男女約4万人について、食事も含む生活習慣と虚血性心疾患発症との関連を追跡調査した結果、「魚を週に8回食べる人は、週に1回しか魚を食べない人に比べて、心筋梗塞を発症するリスクが約6割低い」ということが分かりました(*1)。
研究の内容は2006年1月、米医学誌「サーキュレーション」に発表され、魚食は健康面で改めて評価されています。

心筋梗塞は、メタボリックシンドロームによって動脈硬化が進行することで発症する心臓の病気です。 動脈硬化によって心臓の血管に血栓(血液の固まり)ができて血管が詰まり、血流が止まって心臓の筋肉(心筋)の細胞が壊われてしまうという、虚血性心疾患の代表的なもの。心臓の血管が一瞬で詰まり、突然死んでしまうこともあります。
虚血性心疾患を防ぐためには、食生活・運動習慣・ストレスなどの生活習慣を見直し、メタボリックシンドロームの予防に努める必要があります。

独立行政法人水産総合研究センターの研究によると、ラットを使った実験で、魚食による血栓形成抑制作用は、魚油の血液凝固抑制作用の他に、魚タンパク質による血栓溶解作用も働いていることを突き止めました。つまり、魚油だけを摂るのではなく、「魚を食べること」が、脳梗塞や心筋梗塞など血栓が原因となる疾病の予防に有効である可能性が示されています。

脳卒中

脳卒中は、脳の動脈硬化が進んで脳の血管が詰まったり破れたりする病気で、日本人の死因で毎年3〜4位の上位を占めています。後遺症が残ることが多く、寝たきりなどの要介護状態となる最大の原因ともなっており、生活の質を保つ上で予防を意識した日頃からの生活習慣が重要です。

脳卒中は以下の3つに分類されます。
・脳の血管が破れる「脳出血」
・脳動脈瘤が破裂する「くも膜下出血」
・脳の血管が詰まる「脳梗塞」

脳卒中は動脈硬化が脳の血管で進行した結果として起こることが多いため、効果的な予防としては、メタボリックシンドロームを改善して動脈硬化の進行を食い止めるということがまずあげられます。
※脳の血管に奇形があるために奇形のない人より脳血管疾患のリスクが高い人もいます。

動脈硬化の予防で最も重要なのは、高血圧を防ぐこと。
高血圧の状態が長く続くと動脈硬化が進行し、やがて脳の血管が詰まり脳梗塞へとつながります。より強い高血圧の場合には脳の血管が破れて脳出血を引き起こしたり、脳の血管の一部に動脈瘤ができて破裂し、くも膜下出血を引き起こしたりもします。

高血圧の他、脂質以上症や糖尿病、心臓病も脳卒中のリスク要因。また、これらの疾病に深く関わる生活習慣としては、大量飲酒、喫煙、運動不足、肥満になるような食生活があげられ、可能な限り避けるのが望ましいと考えられます。

血圧に良い作用をもたらす栄養という点では、魚の脂肪に含まれる成分が、動脈硬化や血栓を防いで血圧を下げるほか、LDLコレステロールを減らすなど、ヒトの身体にとって良い作用いくつも持っているということが研究によってどんどん明らかになってきてきました。さらに、最近の研究では、魚介類をよく食べる人では、脳卒中を含む循環器系の病気での死亡リスクが低くなるということも明らかとなりました。ヨーロッパの動脈硬化学会誌に2014年2月に掲載された厚生労働省研究班の論文(*7)によると、日頃の食事で魚介類由来の脂肪酸(DHAやEPA)が多いほど、その後の循環器疾患(脳卒中や心臓病など)による死亡リスクが低いという研究結果が出たとのこと。例えば、サンマを一尾毎日食べ続けることで脳卒中や心臓病で死亡するリスクが2割減少するそうで、魚食がますます注目されています。

魚の持つ優れた栄養は、様々な食物と組み合わせて食べることで、より効率良く吸収・利用できるということも明らかにされています。様々な食材を使ったバランスの良い食事を、楽しくいただきましょう。

肥満

肥満は男女問わず避けたいもの。
外見を気にする人が多いですが、実は、肥満は色々な病気を引き起こしかねない、不健康な状態。健康面でのリスクが高いのです。肥満は時に「恰幅が良い」などと表現されることもありますが、必要以上に脂肪が蓄積した状態は、健康の観点からは早世リスクの高い状態です。

肥満は、皮下脂肪型肥満と内臓脂肪型肥満に分けられます。
腸のまわりに脂肪が過剰に蓄積している「内臓脂肪型肥満」、いわゆるリンゴ型の肥満は特に要注意で、内臓脂肪の蓄積を防ぐことが心臓病や脳卒中をはじめとする生活習慣病の予防につながるとされています。

肥満の予防や解消には運動と食生活の改善が欠かせません。
自分に合った適度な運動を継続する他、野菜を豊富に取り入れ魚を組み合わせた栄養バランスの良い食事を心がけることが大切です。

多くの魚は低カロリー&高たんぱく。
それだけでも大きなメリットですが、魚の優れたところはそれだけでなく、魚に多く含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などの多価不飽和脂肪酸、ヒスチジン、タウリンなどの成分には脂肪増加を抑制する作用があるとされており、魚を継続して食べることで太りにくい身体になっていくことが期待されます(*8)。

また、魚を海藻と組み合わせて食べることが肥満防止につながる、という可能性も指摘されています。

アメリカの栄養学雑誌『The Journal of Nutrition』に、海藻と魚を組み合わせて食べることがどのような効果を持つのかに着目した実験の結果が掲載されました(*10)。その結果からは、ご飯+ワカメの味噌汁+焼き魚、といった典型的な和食の組み合わせが、中性脂質濃度の上昇に伴う肥満や動脈硬化の予防に有効である可能性が示唆されたのこと。

ワカメと魚油はどちらも、血中の中性脂質濃度を低下させる作用を有します。しかし作用のメカニズムが異なるため、ワカメと魚を一緒に摂取することで、中性脂質濃度の低下作用が足し算的に強くなることが、明らかにされました(実験はラットを使って行われています)。

魚と海藻の組み合わせを、より積極的に日頃の食事に取り入れることで、太りにくい体作りを目指せるかもしれません。

糖尿病

欧米型の食生活、運動不足・社会的ストレスの増大、生活環境の変化などにより、日本では生活習慣病の患者数が益々増加しています。中でも糖尿病に罹患している人の数は多く、糖尿病が強く疑われている人、可能性が否定できないいわゆる「隠れ糖尿病」は、合わせて2,000万人以上いるとされています(2015年1月時点)。

糖尿病が疑われる人の約4割はほとんど治療を受けたことがありません。糖尿病ははじめのうちは痛みなどの自覚症状がないため、検査で血糖値が高かったり、治療が必要と言われたりしても治療を受けない人や治療を途中で中断してしまう人が多くいると言われています。

しかし、糖尿病を放置するとやがて合併症が出ます。

糖尿病の三大合併症

  • 糖尿病神経障害
    手足のしびれ、けがややけどの痛みに気づかないなど。
    その他、筋肉の萎縮、筋力の低下や胃腸の不調、立ちくらみ、発汗異常など様々な自律神経障害。
  • 糖尿病網膜症
    網膜の血管がダメージを受けて視力が弱まり、失明する場合もあります。
    白内障になる人も多くいます。
  • 糖尿病腎症
    腎臓の糸球体という部分の毛細血管がダメージを受けて尿が作れなくなり、人工透析が必要になります。
    人工透析は週に2~3回、病院などで何時間もかけて行うため、日常生活に大きく影響します。現在、人工透析になる原因の多くは糖尿病腎症です。

糖尿病は、主に膵臓でインスリンを分泌するβ細胞が破壊されて起こる1型糖尿病と、インスリンの効き目が悪くなったり、インスリン分泌が低下したりすることによって起こる2型糖尿病に分けられます。日本では、主に生活習慣が原因となる2型が圧倒的に多いのが特徴で、生活習慣を改善することで、多くの人は糖尿病に罹患せずに済むとも言えます。

糖尿病を予防するには、
・適度な運動
・栄養バランスの良い食事を、規則正しく、時間をかけて
・良質で適度な時間の睡眠
・ストレスをためない
といった基本的なことがとても大切。
糖尿病が気になる人は、日々の生活を振り返って、少しずつ良い習慣を取り入れてみましょう。

魚の栄養と糖尿病の関係については世界で研究が行われており、魚に含まれるn-3系不飽和脂肪酸がインスリン抵抗性を改善するため、魚の脂質を摂ることで2型糖尿病の発症リスクを低下させられるという結果も出ています(*2)。 まだ研究途上の段階ではあるようですが、魚を含めたバランスの良い食事は、糖尿病の点でもメリットがあると言えそうです。

肝臓がん

肝臓は大人で800〜1,200gと、人間の体内では最も大きなサイズの臓器。
食事で取り込んだ栄養を身体に必要な成分に変換したり、身体にとって有害な物質を無害にする解毒の働きをしたりと、人体にとってとても重要な役割を果たしています。

肝臓には痛覚が無いこともあり、肝臓に問題が生じていても持ち主はなかなか異変を察知できません。そのため、肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれています。自覚症状が出る頃には症状が相当進行している、ということが肝臓の病気の場合にはよくあります。

国立がん研究センター がん予防・検診研究センター 予防研究グループが、男女約9万人を11年間追跡調査し、魚とn-3不飽和脂肪酸摂取量と肝がん発生との関連を調べた結果が、2012年に論文として専門誌に掲載されました(*3)。

研究対象に該当した男女約9万人のうち、11年の追跡期間中に肝がんと診断されたのは、398人。
グループ分けして調べた結果、n-3不飽和脂肪酸を多く含む魚、および、EPA、DPA、DHAといった、魚に多く含まれているn-3不飽和脂肪酸を多くとっているグループほど、肝がんの発生リスクが低いことが分かったと結論付けています。

肝臓がんは、2013年には日本国内のがんによる死因の第5位を占めているがんで(男女計。男性に限ると第4位)(*4)、肝臓自体に発症した「原発性肝がん」と、他の臓器から転移した「転移性肝がん」の2種類に大別されます。

日本では、原発性肝がんのうち肝細胞がんが90%と大部分を占め、その主要な発生要因として肝炎ウイルスの持続感染が指摘(*5)されていますが、上記調査では、肝炎ウイルス陽性者でもn-3不飽和脂肪酸摂取量が多いグループの肝がんリスクは低いという結果となったそうです。

n-3不飽和脂肪酸には抗炎症作用があることが知られています。同調査では、そのためにn-3不飽和脂肪酸が慢性肝炎への抗炎症作用を通して肝がんの発症を抑えているのかもしれないこと、また、n-3不飽和脂肪酸の持つインスリン抵抗性改善作用についても触れて、肥満や糖尿病との関連についても示唆しています。

筋肉減少

筋肉があった方が太りにくく、筋量を増やすことが生活習慣病の予防にもつながることは、もはや常識となりました。

自分の筋力低下を実感するのは、一般的に50歳代くらいとされています。しかし実際には、30歳くらいをピークにして(女性のピークはもっと早くに訪れます)、筋肉は徐々に減っているのです。加齢とともに筋力は低下し、疲れやすくなるので体を動かさなくなり、そうなるとさらに筋力が低下するという負のスパイラルに陥りがちに。

では筋肉が減るとどのような弊害があるでしょうか。

筋肉が減ると基礎代謝量が減り、太りやすい体になります。筋肉量の低下は、糖尿病や高血圧、動脈硬化、心臓病や脳卒中など、生活習慣病の引き金となるのです。

また、生活の質(QOL/Quality of Life)を低下させる疾患として近年注目されている、
・サルコペニア(筋肉量が減り筋力も低下する状態)
・ロコモティブシンドローム(運動器の障害により、要介護となる危険性の高い状態)
といった状態を引き起こしかねません。

しかし、食事の改善や運動の積み重ねによって、ある程度は予防することができます
また、筋肉量の増加に効果があると言われている白身魚を積極的に摂るのもおすすめです。

カゼイン(乳たんぱく質)との比較で、特に白身魚のたんぱく質には、筋肉量を増やす効果があり、また、筋肉への糖の取り込みを促して、血糖の上昇を抑えたり、体脂肪の蓄積を抑えることで、内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)対策につながる効果が期待される、という研究結果もあります。

もちろん、肉や卵なども良質なたんぱく源です。しかしその摂取量を増やすと動物性脂質の取りすぎにつながり、メタボリックシンドロームを招く恐れがあります。魚介類、特に白身魚の魚肉は、良質なたんぱく質であり、かつメタボリックシンドロームを予防する効果が期待できるという、とても優秀な食材なのです。

参考文献

Takafumi Mizushige 他「Fish protein intake induces fast-muscle hypertrophy and reduces liver lipids and serum glucose levels in rats」(『Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry』Vol.79 2015年)

Takafumi Mizushige 他「Fast-twitch muscle hypertrophy partly induces lipid accumulation inhibition with Alaska pollack protein intake in rats」(『Biomedical Research』Vol. 31(2010) No. 6、347-352, 2010年